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28「桜狩と花より・・・?」

桜狩と花より・・・?


お花見と聞いて、一気にテンションが上がった俺とは違い、露骨に眉を顰めて黙り込んでしまった中嶋さんは、不愉快そうな表情を浮かべたまま、パソコンの画面を睨み付けている。
「今度の日曜日だからな。」
校内に貼るらしい告知用のポスターを何本も抱えた王様は、中嶋さんの事などまるで眼中に無い程に上機嫌だった。
「啓太も来るだろう?」
「はいっ!」
弾けるような笑顔のまま声を掛けられて、反射的に返事をしてしまってから、俺は慌てて自分の肩越しに中嶋さんへと視線だけを向ける。
パソコンに向かったままの姿勢を崩す事無く、相変わらず不機嫌そうな表情を浮かべた中嶋さんは此方を見る気配すら無い。
「ヒデも来いよっ。」
しかし、そんな中嶋さんの様子にも慣れているのか、単に気にしてないだけなのか、王様は俺に向けたのと同じ笑顔と同じ声色でそう告げると、ポスターを貼ってくる、と其れこそスキップでもしそうな勢いで学生会室を飛び出して行った。
「―――――」
そんな王様の後ろ姿を何となく視線で追い掛けていた俺は、扉が勢い良く閉まるのと同時に、背後であからさまな溜め息が聞こえ、思わず肩を竦ませる。
「―――くだらん。」
恐る恐る振り向いた俺の耳には、溜め息混じりの中嶋さんの低い声が聞こえてきて、判っていた事だけれども―――気付かれないように、少しだけ眉を顰めた。
中嶋さんが、此の手の誘いに快く乗った試しは無い。
何時だって仕事が立て込んでいる状態の学生会で、明らかに仕事が滞るような―――本来無くても差し障りの無いイベントごとで時間を取られる事を何より嫌う中嶋さんが、良い顔をする訳が無い。
一切手助けはしない―――と、先日企画が持ち上がった其の時点で宣言した中嶋さんの言葉を忠実に守って、王様は学生会主催の此のお花見大会の準備の為、一人で奔走していた。
日頃、あれだけ細かい事務的な作業を嫌がる王様が、自分が発起人のイベントごととなると、俄然やる気が湧くらしく、面倒な機材や食材の発注から、段取りの打ち合わせ等、全てを一人でこなした。
王様が此処まで一人で遣り遂げたのだから、流石の中嶋さんも今更イベントを中止しろ等と言うつもりは無いようだが、参加するつもりも無いらしい。
俺は、少しだけ悲しくなって―――鼻の奥が、つん、と甘酸っぱい刺激を覚えた。
「中嶋さん―――・・・行かないんですか・・・?」
「俺が行く必要性は、全く無い。」
即座に切り替えされて、俺は言葉を飲み込む。
中嶋さんと一緒に行けたら良いな、と思っていたけれど―――説得する為の話術を持ち合わせていない俺にとって、行く気の全く無い相手に首を縦に振って貰うのは、容易い事では無い。
理論派の中嶋さんは、俺なんかよりも数段、言葉を操る事に長けている。
其の中嶋さんを納得させて、同意を得る事は―――難攻不落の城を前に、たった一人で挑む戦士よりも厳しい道のりのような気がした。
「で、でもっ―――・・・俺は、中嶋さんと一緒に―――・・・」
「此の山積みの仕事を見てもなお、其の台詞が吐けるのか。」
鋭く語尾を遮られて―――学生会の仕事の事を引き合いに出されては、俺は何も言えなくなってしまう。
俺の頑張りで何とかなるものならば、死に物狂いで手伝うけれども―――俺が手伝える事など限られている。
其れでも―――。
「あ・・・あの―――・・・」
往生際が悪い俺の態度に、中嶋さんは、ぎろり、と凄味のある眼光で睨んで来た。
俺は、ただ―――中嶋さんと一緒にお花見をしたいだけなのに。
可愛らしい薄ピンク色の桜の花が、春の訪れを感じさせるような暖かい日が続くと、一気に満開を迎え、そして瞬く間に散って行く其の儚くて潔い姿が、俺は結構好きだった。
此の季節しかお花見は出来ない、という期間限定的な楽しみも惹かれる所ではあるのだが。
そんな風に好きな桜の花を、大好きな中嶋さんと一緒に見られたら―――其れは、最高のお花見になるんじゃないかと思うのだ。
「あ、の―――・・・王様、もイベントに参加してしまうのだから―――此の際、其の日だけは気分転換も兼ねて・・・中嶋さん、も一緒に―――・・・行きませんか・・・?」
伺うように上目使いで中嶋さんの様子を伺っていたら、一旦パソコン画面へと視線を戻してから、中嶋さんは深々と溜め息をついて、ぎ、と椅子の背凭れに凭れ掛かった。
「―――ね、そうしましょうよ?」
細いフレームの眼鏡を片手で外した中嶋さんは、目が疲れたのか、目頭を押さえるような仕草をしていて―――此処はもう一押しすれば、同意してくれるのではないかと思われた。
「俺、桜の花って好きなんです。可愛くて綺麗だし―――・・・其れに、今が見頃ですよ。」
今を逃したら、来年まで見られないんですから―――と、つい力説してしまったら、低く笑う声が聞こえてきて、俺は勢いに任せて握り拳を作っていた両手から力を抜く。
「そんな事を言っておいて―――・・・お前は、花より団子のクチだろう?」
愚図る子供を眺めて、困った子だと言っているかのように―――咽喉の奥で苦笑じみた笑いを漏らす中嶋さんに、俺は思わず、かっと頬に朱が走った。
「そっ・・・そんな事、無いですっ!」




そう力一杯叫んだのが、丁度一週間前の事だ。
「―――どうした?」
ひらり、ひらりと―――白に近い、薄い桜色をした花弁が舞う中、目の前に座る中嶋さんの形の良い唇がゆっくりと笑みを刻む。
「いっ・・・い、え―――・・・何、でも―――・・・」
あれだけ嫌がっていた王様主催のお花見大会に、中嶋さんは最終的には参加してくれた。
俺がしつこく食い下がったので、お花見大会後、溜まっている仕事が片付くまで、毎日、王様を必ず俺が確保する事と、俺も仕事を手伝う事を条件に、中嶋さんはお花見に行く事を承知してくれたのだ。
「なんで、も―――・・・ありません・・・」
暖かい陽射しが差し込む学園の中庭で、穏やかな光りに反射して、花弁が白く眩しく瞬く。
時折、緩やかに吹く春の風に煽られて、地面に辿り着く前に花弁が宙を踊るように泳いでいった。
小さな花弁は、中嶋さんの髪や肩に触れていき―――気になるのか、時折、其の長く神経質そうな指先で髪を乱すように、前髪をかき上げる。
明るい太陽の下で、此れ程の至近距離で―――中嶋さんの表情をじっくりと見詰められるのは、滅多に訪れない好機だ。
俺は、其れこそ穴の開く程細かく、観察するかのように視線を巡らせた。
長い睫や、さらりとした細い髪―――眼鏡に添えられた綺麗な指先も、耳元から首筋に掛けての均整の取れたラインも、其の全てが俺の胸を高鳴らせる。
細かいパーツ全てが愛おしいものだったが、それら全てが揃うと、完璧なまでに俺を虜にする存在を形造る。
花より団子―――どころでは無い。
俺は、王様が用意してくれたお寿司もチキンも、お菓子もジュースも―――全てに、手が付かない状態だった。
目の前に座る中嶋さんの濃艶な姿に、視線も意識も釘付け状態になってしまっていた。
王様が、半ば強制的に注いで行ったジュースの入った紙コップを渋々口許へ運ぶ気怠い仕草も、長い脚を面倒臭そうにシートの上に投げ出す姿も―――全てが魅力的で、俺は気が気では無かった。
此のようなイベントごとに、中嶋さんが出席している事自体が珍しい。
日の光りを浴びて、学生会の仕事から離れているせいか―――穏やかな表情を浮かべている中嶋さんは、本当に素敵で、俺の唇は先程から溜め息しか零していなかった。
「・・・・・」
王様が声を掛けて回ったせいで、お花見大会には、大勢の学生が参加している。
中嶋さんの恋人は俺だけど―――でも、其れを大々的に口外している訳では無い。
此の学園内に居ても、勿論、知らない学生もいるだろうし、此れだけの完璧な容姿と頭脳と、更には空手の有段者という強さまで兼ね備えた中嶋さんの人気は―――実は、案外高い。
其の加虐的な性格から、表立って中嶋さんのファンですと追い掛け回すような学生は居なかったが、其れなりに人気は高いのだ。
其の上、気さくに声が掛け易いお花見大会という此の雰囲気の中、中嶋さんへと注がれる視線は驚く程に多かった。
「―――――」
そんな俺の不安を更に煽っているのは―――。
中嶋さんの恋人は俺だけど、俺は中嶋さんのものだけど―――中嶋さんは、どうなのかと問われたら、少しだけ返答に困ってしまう、悲しい此の現実だった。
中嶋さんは俺のものだと、声を大にして言い切れない―――俺自身に自信が無いのと、中嶋さんの気持ちが計り知れないというのもある。
もしも―――俺よりも、中嶋さんが意識を向ける相手が現れてしまったら?
そう考えると、胸が、きゅぅ、と苦しくなる。
学生会室で、書類と睨めっこしている間は、まだ良い―――学生会室は、頻繁に人の出入りがあるような所ではないからだ。
でも―――此の場所はいけない。
学生全員が参加している訳では無いけれど、其れでも此れだけ大勢の視線に晒される中嶋さんを見ているのは―――辛い。
「何をさっきから真剣に見ている。」
面白そうに瞳を細める中嶋さんは―――夜、寮の部屋で二人っきりの時に見せる艶麗な表情とは微妙に違って見えて、何故か焦燥感のような切ない思いに泣きたくなってしまう。
「お前は花より団子じゃないのか。」
瞳が潤んだのが自分でも判った―――そんな俺の様子を見て、中嶋さんは片方の眉を上げながら挑発的に囁いた。
細められていた瞳が、淫志を孕んだ時のように、妖しく閃く。
―――あ。此の表情だ・・・。
俺にだけ見せる、中嶋さんの其の傲慢な表情に、俺の中で巣食っていた不安が一気に消え去って行くようで―――俺は、そんな自分自身に呆れてしまって、小さく溜め息をついた。
「俺、は―――・・・花より・・・中嶋さん、です―――・・・」
周りにいる他の人達には聞こえないようにと、そっと囁いた俺に―――中嶋さんは、微かに笑みを漏らす。
「お前が誘ったんだろう?」
「―――は、い・・・」
でも―――と、俺は語尾を濁した。
此の場所に中嶋さんを引っ張り出そうと必死になった張本人の俺が、こんな事を言うのは可笑しいと思うけれども、此れ以上は耐えられそうもない。
「―――早く、中嶋さんと二人っきりになりたいです・・・」
俯いて呟いた俺の頭に、ぽん、と中嶋さんの手が置かれた。
軽く撫でるような動きをされて―――俺は、胸が一杯になる。
「お前は、俺だけを見ていれば良い。」
上体を倒すようにして、俺の耳元に唇を近付けた中嶋さんの低い声が、鼓膜を甘く震わせた。
「他の事は心配するな。」
勿論、見ている―――俺は、何時だって中嶋さんしか見ていない。
でも―――・・・。
涙が零れそうになって、俺は膝の上で握り締めていた両手に更に力を込める。
「―――お前が俺だけを見ていれば、何も問題は無い。」
ぎゅぅ、と手の甲が白くなる程に握り締めた両手に視線を向けた中嶋さんが、溜め息混じりに―――少しだけ言い方を変えて囁いた。
「誰が見ていようが、何を言われようが―――俺には関係無いからな。」
其の言葉で―――俺は、弾かれたように中嶋さんの顔を見上げる。
俺の大好きな中嶋さんの表情―――高慢で、意地悪で、自分の言う事に従わせるだけの圧倒的な支配力を持っていて、だけど、其の瑠璃色の瞳の奥には優しい光りが宿っている。
俺にしか判らない位の、淡い灯火だ。
「―――――」
俺にだけ向ける表情で、俺にとっての悩殺的な台詞をさらりと言ってのける中嶋さんに、嬉しさが込み上げてきて、俺は軽いパニック状態に陥ってしまった。
声は咽喉に張り付いてしまったかのように出て来ないし、全身の血が逆流でもしているように一気に体温が上昇する。
「判ったら、少しは桜でも見ろ。」
無言のままの俺に―――其れでも、泣き出しそうな瞳と火照った頬と、そして何よりも緩んでしまった口許で、俺の心情は見透かされてしまったらしい。
「お前の我が儘を聞いてやったんだ―――・・・判っているだろう?」
頬杖を付くように右手を頬に当てた中嶋さんは、小指で自分の唇を撫でるようにしながら小さく笑った。
「―――花弁に埋もれるお前も悪くはないがな。」
明るい陽射しの中の淫乱めいた仕草に、俺は思わず魅入ってしまい―――其の言葉の意味を理解する事は出来なかった。
「―――――・・・?」
俺の頭の上に置かれていた右手が、するり、と動いて、俺の前髪に触れる。
何かを摘まむような仕草の後―――俺の目の前に差し出されたのは、中嶋さんの長い指先に挟まれた桜の花弁だった。
「―――――っ・・・」
小さな其の花弁を見て―――俺は、漸く慌てたように自分の周りへと視線を巡らせる。
風のせいか、俺の周辺には特に桜の花弁が多く散っていて、場所によっては吹き溜まりのようになってしまっている所まであった。
中嶋さんばかり見詰めていて気付かなかったが、俺の肩にも髪の毛にも多くの花弁が乗っている。
「―――今夜は、覚悟しておけよ。」
そう言うと、中嶋さんは思案するように指先を自分の顎へと持って行き、少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべた。
指先に挟んだままの花弁が中嶋さんの唇に触れ―――まるでキスをしているようだと思いながら、細く長い其の指先を視線で追い掛けながら、俺は淫靡な其の仕草と言葉に酔ったような気分に陥る。
「―――は、い・・・」
中嶋さんに捕らえられ、縛られて―――俺は、中嶋さんだけの色に染め上げられてしまった。
其れで良いのだ―――俺には、中嶋さんだけしかいないのだから。
「―――良い子だ。」
従順に返事を返した俺に、中嶋さんは満足そうな笑みを浮かべる。
艶美な時間まで、まだ今は降り注ぐ太陽からの光りが眩し過ぎて―――俺は、一つ瞬きをすると、狂い咲き乱れる桜の木を見上げて瞳を細めた。






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