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素敵なお正月の迎え方~お出掛け編~

素敵なお正月の迎え方~お出掛け編~


「あ――あ・・・やっぱり男二人で飲むのは虚しいなぁ―――・・・」
大袈裟な程に大きな溜め息をついて、丹羽は手にしていたグラスを傾ける。
薄い硝子越しに、綺麗なブルーの液体が揺らめいた。
「勝手に付いてきて、何を言う・・・」
呆れたように呟くと、丹羽の隣りに腰掛けていた中嶋が、溜め息混じりに前髪をかき上げる。
「だってよぉ――・・・暇なんだもん・・・」
拗ねたように唇を尖らせる丹羽は、実に子供っぽくて、とてもあのBL学園の学生会トップに君臨する王とは思えない。
「何時もみたいに、カウントダウンパーティでもやれば良かっただろうが。」
ポケットから取り出した煙草の箱から一本引き抜くと、唇に挟み、中嶋はテーブルの上に置いてあったマッチの箱を手に取る。
「・・・・・」
しゅ、とマッチをすると、独特の匂いが一瞬漂い、温か味のある明るい光りがぼんやりと周辺を照らし出した。
「大晦日ぎりぎりまで、仕事を押し付けやがったのは、何処の誰だ?!」
お陰で、計画を立てる暇すらなかったと―――丹羽は、恨めし気に、隣りで優雅に煙草を咥えている中嶋の冴えた横顔を睨み付ける。
「どっかの誰かが、散々仕事をサボって溜め込んでいたせいだろうが。」
ふ、と唇の端から紫煙を細く吐き出して、中嶋は右手を軽く振ってマッチの火を消すと、テーブルの上に置いてあった硝子製の灰皿の中に捨てた。
「大晦日までには終わるようにスケジュールを組んでやっただろう。正月はのんびり出来るぞ。感謝して貰いたいくらいだ。」
カウンターに突っ伏すようにして中嶋を見上げてくる其の情け無い丹羽の顔に向けて、中嶋は、紫煙を吐き出す。
「―――――っ・・・」
嫌そうに咳き込みながら、丹羽は片手を振った。
「何すんだよ、くせぇだろ!」
貴様だって吸うくせに何を言うのかと、中嶋は唇の端を皮肉げに持ち上げる。
「銘柄が違うだろ。手前で吸う以外の煙なんて、不味いだけだっ。」
ふん、とそっぽを向く丹羽に、中嶋は面白そうに咽喉の奥で笑う。
人差し指と中指の間に挟んだ煙草を口許に持って行きながら、ゆるゆると立ち昇る紫煙を気怠い視線で見詰める中嶋は、とてもじゃないが高校生には見えない。
男の貫禄のようなものが漂っていて―――丹羽は、不貞腐れたように溜め息をついた。
「―――――」
此処は、中嶋行き付けのジャズバーだ。
会話の邪魔にならない程度に、静かに聞こえて来るジャズも、照明を極力落とした店内も、実に居心地の良い空間を作り出している。
大晦日という今日の日ですら、此の店内だけは何時もと変わらぬ空気が、静かに流れていた。
薄暗い店内を見渡せば、殆どがカップルであったが、大晦日だからと言って騒ぐ人もなく、静かに此の空間を楽しんでいるようだった。
中嶋が好みそうな店である。
会員制である事も、中嶋好みなのかもしれない―――静かな此の時間を邪魔するようなマナーの悪い客は、一人もいない。
「しかし、お前も不憫だよなぁ―――・・・」
に、と唇を笑いの形に上げながら、丹羽は突っ伏していたカウンターから身体を起こした。
「何がだ。」
半分以上残っている煙草を灰皿に押し付けて揉み消すと、中嶋は丹羽の言葉に怪訝そうに瞳を眇めた。
「何だかんだ言っても―――・・・結局お前だって、大晦日の夜に一人寂しく飲んでるんじゃねぇか。」
同情するぜ―――等と、したり顔で呟きながら、丹羽は中嶋の肩をばしばしと叩く。
大きな其の手で遠慮無く叩かれた中嶋は、思い切り眉を顰めながら、直ぐ横で豪快な笑い声を上げている丹羽を睨み付けた。
「ま、新しい年に乾杯といきますかっ!」
調子に乗って中嶋の肩に腕を回そうとした丹羽は、するりと立ち上がった中嶋によって空振りに終り―――行き場を失った片手で空中を引っ掻くような仕種をする。
「それは無理だ。」
中嶋はカウンターに居た長身の男に、内ポケットから何やらカードのようなものを取り出して見せると、面白そうに瞳を細めて丹羽を見下ろした。
「好きなだけ飲んで良いぞ。俺からの奢りだ。」
ホールにいた黒の背広姿の男が持ってきたコートに袖を通しながら、中嶋は唇に皮肉げな笑みを刻む。
「―――は?何だよ、それ。」
むっとしたように眉を顰める丹羽に、中嶋はコートの襟を直しながら、ポケットに両手を入れた。
「俺は啓太と待ち合わせをしている。」
其れだけ言うと、中嶋はコートの裾を翻すようにして踵を返す。
「なにっ?!」
思わず荒げた語尾に、周囲に居た客から、一斉に非難めいた視線が向けられて―――丹羽は慌てて唇を閉じた。
「おい、ヒデ―――・・・」
そりゃあ、ねぇだろ―――と、情け無い声色が背後から聞こえてきて、中嶋は自分の肩越しにカウンターの所で佇む長身の丹羽に視線を向ける。
「貴様が勝手に付いて来たんだろうが。俺は、一言も此処で年を越すとは言っていない。」
じゃあな、と片手を上げると、中嶋の姿はドアの向こうに消えてしまった。
「ちぇ―――・・・」
冬休みに入って、早々に啓太が実家に帰省してしまい、溜まりに溜まった学生会の業務をこなして行く日々の中、啓太に会えないのは痛手だったが、其れは中嶋も同じだと、内心ほくそ笑んでいたのに―――まさか、大晦日の晩に約束を交わしていたとは予想していなかった。
考えてみれば、学生会のお手伝いが出来なくてすみません―――と、謝罪しながらも、休みが始まるのと同時に帰省してしまった啓太を怒る事もせず、啓太のいない冬休み期間中、特別不機嫌になる事もしなかった中嶋の様子からして、休みに入る前から、約束は交わされていたのだろう。
やけに余裕な態度で煙草を吸っていた中嶋の横顔を思い出し、丹羽は口惜しそうに歯切りしをする。
「―――――」
見ているだけで幸せな気分になるような啓太の笑顔を―――何度、自分だけに向けたいと思った事か。
丹羽はグラスに残っていたカクテルを一気に飲み干すと、一つ溜め息をつく。
既に体内を回り始めているアルコールのせいで、身体中が仄かに暖かくなってきていた。
丹羽は元からアルコールには強く、殆ど酔った事は無かったが、今夜は心地よく酔えそうだった。
辛口のカクテルを追加してから―――丹羽は自分の腕時計で時刻を確認する。
「―――――」
新しい年を刻み始めたのを見届けてから、丹羽は一人、グラスを目線の高さまで持ち上げた。
同じ空の下―――同じように新しい年を迎えているであろう、啓太と中嶋を思いながら。






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