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妖精のお菓子1

妖精のお菓子


「何だ、これは。」
思わず額に指先を添えて、大きく溜め息を吐き出した中嶋の目の前では―――うんざりしたような其の声色をものともせず、嬉々とした様子で紙袋を開封している啓太の姿があった。
「何って―――・・・福袋ですよ、福袋!」
買うって話し、しましたよねぇ―――と、呑気な口調の啓太は、中嶋の方へ視線を向ける事もせずに、開封したばかりの福袋の中を覗き込んでいる。
「―――――」
啓太が元旦早々から購入してきた其の福袋は、最近啓太が好んで購入している自然派石鹸を取り扱うお店で販売しており、実家の近くには其のショップが無いとかで、福袋を買う為だけに、元旦までは寮にいると言い張った位だった。
豊富なラインナップと、購買意欲を掻き立てられる一風変わった商品名で、中嶋自身も面白いとは思っていたが、啓太自身は、其の魅惑的な香りが特にお気に入りらしく、毎年直ぐに売り切れてしまうという其の福袋を買う為に、朝早くから出掛けていたらしい。
「―――――」
鼻歌混じりに、子供のようにはしゃぐ啓太を軽く一瞥すると、中嶋は中断を余儀なくされていた読書を再開した。
福袋などという、中身の判らないものをわざわざ買う奴の気がしれない―――と、中嶋は深く溜め息を漏らす。
もっとも、福袋を買う為に、元旦までは寮に居ると宣言した啓太に付き合って残った自分自身もどうかしている―――学生会の業務が残っているからだと、素っ気なく突き放した其の言葉を真に受けている啓太に、中嶋は飽きれたように再び溜息をつく。
中嶋の本心など、啓太にわざわざ教える必要性など無いのだが、全く疑う事もしない其の真っ新で従順な態度は、確かに美点ではあるが、其れは其れで腹立たしく感じてしまうのも確かで―――困ったものだと、中嶋は内心苦笑を漏らす。
「うわ、此れっ―――・・・俺が好きなヤツだっ。」
ラッキー!と、小さくガッツポーズを作りながら啓太が袋から取り出したのは、向日葵を彷彿とさせるような鮮やかな黄色の液体が入った小振りのボトルだった。
「―――――・・・」
しかし、啓太のように此れ程手放しで喜んでくれたら、販売者側も本望ではないか。
そんな素直で純粋な啓太の様子に、中嶋は思わず溜め息と共に瞳を細めた。
「ほら、中嶋さん―――・・・『みつばちマーチ』のシャワージェルです。俺がいつも使っているヤツですよ。」
そう言いながら啓太は、童話のタイトルのような商品名の書かれた其のボトルの蓋を開けると、再開した筈の本を膝の上に広げたまま、啓太の様子に視線を向けていた中嶋の鼻先に近付ける。
シャワージェルというのは、確かボディソープの事だったな―――と記憶を探っていたら、鼻先に付きつけられたボトルの口から漂って来た甘ったるい蜂蜜の香りに、中嶋は一瞬にして思い切り眉を顰めてしまった。
「―――――っ・・・」
此れが?―――思わず呟きそうになって、中嶋は何とか言葉を押し留める。
此れが、いつも啓太が身に纏っている香りか?
確かに、お風呂上りの啓太からは甘くて良い香りがしていたが、こんなに濃密な匂いだっただろうか―――と、中嶋は気付かれない程度に首を傾げた。
濃厚な蜂蜜の匂いと、咲き乱れる花々の何処かグラマラスな香りは、啓太の持つ爽やかなイメージとはかけ離れているように思えた。
其れとも、洗い流した後には、何時もの仄かに甘くて可愛らしい香りに変化するのだろうか。
「蜂蜜の良い香りっ」
啓太は終始ご機嫌な様子で、中嶋の怪訝そうな表情にも気付いていないのか、手にしていたシャワージェルの蓋を閉めるとフローリングの床の上に置き、更に福袋の中身のチェックを続ける。
「―――あっ・・・」
小さく、啓太が嬉しそうな声を上げた。
「見て下さい、中嶋さん―――・・・これっ」
無意識に視線を向けていた中嶋は―――華が綻ぶように、突然現れた啓太の満面の笑みに、思わず瞳を眇める。
不覚にも、胸が一瞬締め付けられた。
「―――なんだ。」
真正面からぶつかった瞳が絡み合ったが、中嶋は直ぐに視線を外す。
あからさまだったか、と中嶋が少しだけ訝しそうに啓太の様子を伺ったが、啓太の方は特に気に掛けている様子も無く、取り出した小振りのボトルをじっくりと観察していた。
「Dirtyシリーズのシャワージェルですよ。」
そう言いながら啓太が見せてくれたのは、快晴の青空を連想させるような実に鮮やかなスカイブルーの液体の入ったボトルだった。
「此れ―――・・・中嶋さんに似合いそうだなぁて・・・前から思っていたんです。」
何処か照れ臭そうに呟く啓太は、頬を微かにピンク色に染めていて、実に可愛らしい。
「・・・ふ―――ん・・・」
たいして興味も無さそうな様子で、中嶋はちらり、と啓太の手の中にある綺麗なスカイブルーの液体へと視線を投げる。
「ミントの爽快な香りが、絶対中嶋さんだなぁ、って―――・・・」
上目使いで見詰めてくる啓太の心境は手に取るように判る―――使って欲しいな、とでも考えているのだろうと、中嶋は心の中で小さく溜息をつく。
別に使っても構わないのだが―――日頃、啓太から漂う甘ったるい香りを知っているだけに、どうしても此処の商品は啓太が使うもの、という先入観が先に立ってしまう。
「中嶋さんイのメージなんです・・・」
尚もダメだしで小首を傾げるようにしながら、小さく拗ねたように唇を尖らせる啓太に、中嶋は、そうか、とだけ呟くと膝の上に置いたままだった本へと視線を落とす。
「―――――」
中嶋の反応が、此れ以上良くなる事は無いと判ったのか、啓太は諦めたような溜息をつきながら、手にしていたボトルを先に置いた黄色のシャワージェルの横に並べた。
「うわぁ、可愛いっ」
更に福袋の中へと手を入れて中身を漁っていた啓太は、次には甲高い声を上げる。
コロコロと表情を変える其の様子に―――中嶋は、忙しいヤツだと内心、苦笑を浮かべた。
嬉しそうに啓太が取り出したのは、先程と同じ小振りの入れ物に入った―――其れは其れは見事な、愛らしいピンク色をした液体だった。
「フェアリーキャンディですって!名前まで可愛いですねぇ。」
蓋を開けて自分の鼻先へ持って行った啓太は、くんくん、と鼻を鳴らすようにして香りを楽しみながら、美味しそうな匂いがします、と歓声を上げている。
先程のように中嶋の鼻先に入れ物を持って来るような事はしなかったが、其れでも相当香りが濃厚なのか、綿菓子やキャンディ、キャラメルなど、様々な可愛らしいお菓子をイメージさせるような甘ったるい香りが中嶋の鼻腔を悪戯に刺激する。
「―――――」
視界の端で、手にしたボトルのパッケージを眺めながらも、中嶋の反応を気にして、ちらちらと此方に視線を向けている啓太の姿を捉えてはいたが、中嶋はあえて無言を押し通していた。
「判りました―――・・・」
すると、ぷぅ、とまるで音が聞こえてきそうな勢いで、啓太が頬を膨らませる。
「中嶋さんが興味が無いって、こと―――・・・よぉく判りましたっ。」
つん、としたように顎を少しだけ上げて、啓太はそっぽを向いた。
「今日は俺、5時になったら直ぐにお風呂に行って来ます。」
壁に掛かっている時計に視線を向けると、あと1時間程で寮のお風呂が使える時間帯になる。
「・・・・・」
今日のように、休みの日など―――中嶋の部屋で過ごす時は、大抵、部屋に備え付けになっているお風呂を利用していた。
しかし、元旦から買い出しに行ったというのに、相変わらずの素っ気ない態度で、心なしか批判的な態度のようにも見える中嶋に、啓太の気持ちはすっかり落ち込んでしまっていた。
折角の休みだというのに、此の侭、苛々した気持ちを引き摺るよりは、大浴場でゆっくりお湯に浸かって気分を切り替えた方が良い―――啓太はそう考えると、中嶋の様子を伺う事もしないで大浴場へと行く事を決めてしまう。
大浴場から帰って来る頃には、きっと何処かしら不機嫌な中嶋の態度も治っているに違い無い。
こうなってくると、先程までの落ち込んでいた気持ちは何処へやら―――大浴場へ向かうのが楽しみになってきていた。
平日は大浴場を利用していたが、週末は何故か行った事が殆ど無く―――特に止められた記憶も無いと思うので、別に構わないだろう、と啓太は床に並べたボトルにピンクのシャワージェルが入ったボトルも加えると、腕を組んで考えるような仕草をした。
「どれを使おうかなぁ―――・・・」
此れ程までに、手元にシャワージェルの数が揃っているのも珍しい―――早く試してみたい、というのが、啓太の正直な気持ちでもあった。
床に並べたシャワージェルの上を、楽しそうに弾ませながら彷徨っていた啓太の指は、ひとつの入れ物の上で止まる。
ぽん、と蓋を叩くようにしてから、啓太は其れを持ち上げた。
「此れっ―――・・・使った事無いから、やっぱり此れにしようっ。」
そう言いながら啓太が手にしたのは、先程まで手にしていたピンク色の『フェアリーキャンディ』と書かれたシャワージェルだった。
「甘くて美味しそうだし―――・・・」
言いながら啓太は、ボトルの蓋を再び開けると、鼻先を入れ物の口に近付けて、うっとりと吐息を漏らす。
「食べられそうだなぁ―――・・・」
中嶋の個人的な嗜好としては、甘ったるいお菓子の香りに比べたら、最上級のお酒の香りの方がよっぽど魅惑的なのだが、前者を好む者の方が圧倒的に多いのは言うまでも無く、隙あらば啓太を狙っている不届きな輩が、此のBL学園内に数多く存在するというのもまた、厄介な事だった。
「―――――」
此のシャワージェルを使った啓太は、極上のデザートの如く、甘美な香りを身に纏っている事だろう。
其れこそ―――啓太の言葉を借りるなら、食べられそうなくらいに甘ったるい香りを漂わせているに違いない。
中嶋の切れ長の瞳が、す、と細められた。
「―――――判った。」
大きな溜息を吐き出すと、中嶋は眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら、観念したように―――軽く肩を竦める。
「俺が悪かった。」
はぁ、と盛大な溜息混じりの中嶋の言葉に、啓太は驚いたように瞳を見開いてから、直ぐに其の瞳を嬉しそうに細めた。
拗ねてしまった自分を慰めてくれているのかと―――啓太は、ほんのりと頬に朱を走らせる。
「お前が誘ってくれていたのに、無視をして悪かった。」
しかし、続いて発せられた中嶋の其の言葉に、啓太はきょとん、としたように瞬きを繰り返すと、え?と小首を傾げた。
―――は?
今、物凄い台詞を聞いたような―――啓太は、ひく、と頬を引き攣らせる。
「そんなに此れを使いたかったとは知らなかった。」
やれやれ―――といった仕草で、膝の上にあった本を床に置いた中嶋は、溜息混じりに前髪をかき上げながら立ち上がると、にやり、と唇の端を上げた。
「5時まで待つ必要は無い。」
言うのと同時に、中嶋は腰を軽く屈めるようにして啓太の手の中にあったシャワージェルの入っているボトルを取り上げて、軽く上に放る。
「今直ぐ使わせてやろう。」
落ちてきたボトルを片手で受け止めると―――中嶋は、立て、というように、啓太に向かって人差し指をくい、と動かした。
「―――――」
まるで犬か猫を呼び寄せるかのような傲慢な其の仕草に―――しかし、啓太は、どきん、と心音が跳ね上がったのを確かに感じていた。
「―――仕方が無い。甘やかし過ぎだな、俺も。」
放心したように中嶋の顔を見上げている啓太の様子に―――溜め息をつきながらも、しかし何処かしら楽しそうな声色で呟くと、中嶋はボトルを片手で持ちながら、啓太の身体を抱き上げる。
「えっ・・・う、わっ―――・・・?」
自分の身に何が起こっているのか―――殆どパニック状態に陥ってしまった啓太は判断が出来ず、大きな瞳を更に見開きながら、咄嗟に手足をばたつかせる。
「暴れるな。落とすぞ。」
さらり、と怖い事を言っておきながら、幾ら啓太が華奢な身体つきとはいえ、平然とした様子で難無く持ち上げてしまった中嶋は―――勿論、落としそうな事もなく、其の儘、バスルームへと向かう。
「あ、あのっ・・・あの―――・・・っ!」
パニックに拍車が掛かって言葉も出てこない啓太は、落とされないように中嶋のシャツにしがみ付く事くらいしか出来ずにいた。
「たっぷりと―――此れ、を使って洗ってやろう。」
脱衣室で漸く下された啓太は、足が床に着いた瞬間に、中嶋が手にしていたシャワージェルのボトルを首筋に押し当てられ―――ひやり、としたプラスチックの其の感触に、思わず身体を震わせる。
「あれだけ誘惑したんだ―――覚悟は出来ているんだろうな。」
「ゆっ・・・?!」
誘惑した覚えなんて―――と叫ぼうとして、啓太は間近に迫っていた中嶋の鋭い眼光に捉えられて、思わず息を飲み込んだ。
「無自覚とはな―――・・・」
此れだから―――と、中嶋は飽きれたように溜息をつく。
こんな調子で愛想を振り撒きながら、加えてあの甘ったるい香りを身に纏い、白い肌を曝け出していたとしたら―――想像するだけで危険なこと、この上ない。
躾が必要だな―――中嶋は、楽しそうに加虐的な笑みを其の唇に浮かべた。
「フラフラと誰にでも尻尾を振るような真似は、二度と出来んようにしてやる。」
誰が飼い主なのか、はっきりと其の身に刻み込む必要がありそうだ。
「俺が許可するまで、大浴場は使用禁止だ―――・・・良いな。」
もっとも―――わざわざそんな事を言わなくても、啓太自ら行きたくないと懇願する程の状態にしてやろう。
「―――――」
絡み付く視線は、まるで獲物を狙う肉食獣のような鋭さで―――啓太は、こく、と無意識に咽喉を鳴らした。
「・・・お、俺っ―――・・・」
耳元から首筋に掛けて、中嶋の長い指先が滑っていくのを、頬を染めながら従順に受け入れていた啓太は、恥ずかしそうに俯きながら声を震わせる。
「俺、は―――・・・中嶋、さんしか―――・・・興味ない・・・か、ら―――・・・」
甘く嗄れた其の声色に、中嶋の瞳が満足そうに細められた。
「良い子だ。」
吐息のように囁かれた言葉は、啓太の胸を熱くする。
きっと其れ以上に、身体も心も、全てが燃えるような熱に晒される―――中嶋にしか作り出せない熱で、啓太の全神経を支配してくれる。
「大好き、です―――・・・中嶋、さ―――・・・」
此の甘い香りを感じるたびに―――きっと、中嶋から与えられた熱を思い出すに違いないと、啓太は中嶋の手にあった鮮やかなピンク色の液体の入ったボトルに片手を添えながら、ゆっくりと瞳を閉じた。









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