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友達以上の恋心

友達以上の恋心


「お前―――・・・そんなに珈琲好きだったか・・・?」
不意に掛けられた其の言葉に、中嶋は不思議なものでも見るような視線を向けた。
それで何杯目だ?また飲むのか?―――机に肘を付いた恰好で、丹羽が少しだけ呆れたように呟く。
「―――どっかの胡散臭い男が好きなモノよりは、マシだと思っているが?」
溜め息と共にそう告げると、中嶋は手にしていた書類を、心底嫌そうに机の端に放り出した。
其れは、今から遡る事、20分前―――丁度先程、会計部から届けられたばかりの書類で、不備があったとかで、会計部補佐の七条が直々に持ってきたものだ。
犬猿の仲と噂されている七条が学生会室に顔を見せたというだけで、中嶋の機嫌は急降下するというのに、加えて此の時とばかりに辛辣な嫌味のオンパレードを聞かされる羽目に陥り、中嶋の機嫌は最低最悪なものになっていた。
不備と言っても、各部活から提出された活動報告書を添付して出した書類の中で、一つの部活だけ、活動報告の内容に誤りがあっただけなのだが―――直接的に学生会側のミスでは無いものの、監査不足だの、注意力が散漫だのと、七条は涼しい表情で散々小言を並べ立てたのだ。
中嶋の機嫌が悪いのも、尤もだろう。
「―――――」
其れが判っているだけに、学生会会長の丹羽は、大嫌いだと豪語している書類への承認印を押す仕事に集中している振りをして、なるべく中嶋には関わらないようにしていた。
生欠伸を噛み殺しながらも、机の上に山積みになっている書類を黙々と作業を進めていたが、重く圧し掛かってくるような暗い空気に耐えかねて天井を振り仰いだ其の時―――タイミング良く、啓太が学生会室に姿を見せてくれたのだ。
眉間に皺を寄せて、見るからに不機嫌オーラ全開の中嶋に、こんにちは!と明るい笑顔を見せた啓太に対して、思わず安堵の溜め息を漏らした丹羽を鋭く一瞥した中嶋は、開口一番、啓太に珈琲を淹れろと苛々した様子で命令を下す。
「はい、今淹れますね。」
重苦しい空気を一瞬にして吹き飛ばすような啓太の明るい声色と、弾ける笑顔に救われたような気持ちになったのも束の間、まるで給湯室へ追いやるような中嶋の言葉に、丹羽はむっとしたように眉を顰めて―――そして冒頭の台詞が飛び出したという訳だった。
さっきも、自分で用意した珈琲を飲んだばかりだろうが―――何も、来て直ぐの啓太に頼まなくても良さそうなものなのに。
丹羽は、何処かしら不貞腐れたように表情を歪める。
「―――――」
そんな丹羽の様子に、中嶋はちらりと一瞥したものの、反論する気もないのか、直ぐにパソコンへと視線を戻すと、何事も無かったかのように作業を再開してしまう。
「中嶋さーん、珈琲入りましたよ。」
相手の気持ちを察するのは上手いくせに、変な所が鈍感に出来ているのか―――其れとも、他の一般生徒と違い、中嶋の事を脅威の対象として見ていない啓太にとって、此れ位の中嶋の不機嫌さは日常茶飯事で、然程気にする程の事では無いのか。
暫くして、給湯室からトレイを手に出て来た啓太は、躊躇する事無く、にっこりと満面の笑みと共に中嶋の机の上にカップを置いた。
ほわほわと柔らかな湯気が、ゆったりと立ち昇っていく。
ああ、と短く答えた中嶋は、啓太の方へは見向きもせずにカップへと指を伸ばすと、其の侭口許へと運んだ。
「―――どう、ですか・・・?」
緊張した面持ちで、俯き加減に中嶋を見詰める啓太の其の様子に、丹羽は、僅かに眉を顰める。
不安げに揺れる瞳を隠しもしない啓太は、恐怖に怯える子犬のようで―――中嶋の前で、そんな表情を見せたりしたら、苛めて下さいと言っているようなものだ。
短い付き合いとはいえ、中嶋の性格を把握している丹羽にとって、今の此の状況は、猛獣の前にひ弱な小動物を差し出すようなもので、とても放っておけるものでは無かった。
何か無理矢理にでも用事を見付けて、啓太をこちらに引き寄せるか、其れとも中嶋の注意を逸らすような何かがあれば―――そんな風に視線だけをキョロキョロとさせながら思考をフル回転させていた丹羽だったが、次に発せられた中嶋の言葉で、思わず動きを止めてしまった。
「―――上手く淹れられるようになったじゃないか。」
こくり、と一口珈琲を口に含んだ中嶋は、僅かに唇の端を上げて目の前に立つ啓太に漸く視線を向けた。
「良い香りだ。」
カップを鼻先に持って行きながら、中嶋が満足そうに呟く。
「中嶋さんが手に入れてくれた、ジャマイカ産のブルーマウンテンですから。最高級の品質と言われるだけの事はありますよね。」
小さな丸いトレイを胸元に抱え込むようにしながら、照れたように頬を緩ませる啓太に、中嶋はカップを傾けると、す、と瞳を細めた。
何処かしら見る者を冷たく突き放すような冴えた其の瞳が、真っ直ぐに啓太を射竦める。
「最高級品だろうが、下手なヤツが淹れれば美味くない。」
感情の読み取れない瞳に臆する事無く、啓太は中嶋の其の言葉に、嬉しそうに小首を傾げながら微笑んだ。
「―――ありがとうございます。」
中嶋にとっての、最高級の賛辞である事が啓太にも判ったのだろう。
そんな二人の様子に―――何よりも、丹羽自身が一番驚いていた。
あの中嶋が、恐らく本心からだろう、手離しで誰かを褒めている姿など、お目に掛かった事が無い。
仕事上の効率性を計算した上で、賛辞の言葉を口にする事はあるが―――感情が篭っていない事は、学生会という仕事柄、中嶋の傍にいて中嶋の事を最も良く知る丹羽が一番良く判っていた。
他人を褒める中嶋もなかなか見られるものでは無いが、実に判り難いが、中嶋なりに褒めているのだという事を理解しているらしい啓太の様子に―――丹羽は一番驚いていた。
「―――――」
中嶋がゆっくりと時間を掛けてカップを傾ける様子を、微かに頬を染めた啓太が実に幸せそうに見詰めている。
「―――啓太ぁ・・・俺には―――・・・?」
ガリガリと頭を掻く仕種をしながら、丹羽は何処かしら不貞腐れたように上目使いに啓太の背中を見遣った。
「あ、はい。今、淹れてます。持って来ますね。」
くるり、と振り向きざまに笑顔を向けられ、思わず丹羽は、がつん、と額を自分の机にぶつけてしまった。
「・・・王様?」
きょとん、とした瞳のまま、小首を傾げる啓太に、丹羽は大袈裟に溜め息をついて見せる。
呼び掛けた丹羽のタイミングが悪かっただけなのか、啓太がそうとは意識していないのがいけないのか、中嶋に向けられていた表情のまま、啓太が振り向いたものだから―――扇情的とさえ思えるような艶美な笑顔を一瞬垣間見て、丹羽の中で何かが音を立てて崩れていくようだった。
「・・・所詮、俺は二番目かぁ―――・・・」
ぼそ、と呟いた丹羽の言葉に、啓太は益々困惑したように眉を顰める。
自分には向けられた事の無い甘い微笑みが、惜し気も無く中嶋には差し出されているのだ。
其の事に気付いているのかいないのか―――冴えた中嶋の横顔からは、感情は読み取れず、もし気付いていないのだとしたら、丹羽は今直ぐにでも殴り倒したい気持ちだった。
「え、っと・・・王様―――・・・珈琲、要らなかった、とか・・・?」
―――そんな事は言ってないぞ・・・。
全く見当外れの事を言い出す啓太に、丹羽は何やら泣き出したいような気持ちになって、がっくりと項垂れる。
「まぁ―――・・・良いや・・・珈琲頼むよ、啓太。」
苦笑いを浮かべながら、丹羽は机に突っ伏した格好のまま、何とか視線だけを上げた。
「はぁい。」
ぱたぱたと、可愛らしい擬音が付いていそうな仕種で、啓太が給湯室へと小走りに戻って行く姿を見送りながら、どうも最近、調子が狂うな―――と、丹羽は机に視線を落として、一つ溜め息を零す。
―――気付いているんだろうな・・・。
気付いていない訳が無いと、丹羽は香ばしい珈琲の香りが漂って来る給湯室へと、ちらり、と視線を向けた。
あんな風に純粋な瞳で一途に見詰められたら、どんな気持ちがするんだろう。
中嶋だって、当然気付いている筈だ―――悪い気はしないと思う。
現に、中嶋の珈琲好きは元からだが、啓太が学生会室に出入りするようになってから、一日に飲む珈琲の量は断然増えている。
其れに、恐らくは中嶋に褒められたい一心なのだろう―――当初、インスタントしか淹れた事が無いとはっきり言っていた啓太が、今ではそこ等辺の喫茶店にも負けない珈琲を淹れるようになっていた。
自分以外の人間全てを―――下手したら丹羽に対してまでも、見下すような態度しか取らない中嶋が、啓太にだけは違うのだ。
感情を表に出さない中嶋の態度の変化は、他の学生達から見たら恐らく気付かない程度のものかもしれないが、学生会という組織で関わってきたという事もあるが、近くで見ていた丹羽にとっては一目瞭然だった。
啓太が淹れる珈琲は美味い、とまで言わせたのだ―――あの中嶋に。
啓太に対する態度にだけは、明らかに優しさが込められている。
―――俺だって、褒められた事あったかどうか・・・怪しい位なのになぁ。
中嶋が、啓太の事を気に入っているという事なのだろう―――本人に自覚があるかどうかは別として。
―――お似合いの二人だなんて、ぜってぇー思わねぇかんなっ!
不貞腐れた表情で唇を尖らせて、丹羽は、ごりごりと額を机に擦り付ける。
「王様ぁ、珈琲入りましたぁ。」
丹羽のカップを乗せたトレイを両手で持ちながら、此方に向かって来る啓太の小柄な其の姿に、残り火が燻るように、もやもやとしていた気持ちも一瞬にして忘れてしまうと、思わず丹羽は顔を上げると、瞳を細めて魅入ってしまう。
しかし、啓太の姿の向こう側から、真っ直ぐに此方を見据える夜の闇のように冷たい瞳とぶつかって、丹羽は小さく息を飲み込んだ。
ラピスラズリの宝石のような煌きが、鋭い刃のように丹羽に突き刺さる。
「―――――」
パソコンのキーを叩く指の動きを完全に静止させ、無言の視線を向ける中嶋に、丹羽は面白いものでも見付けたように、唇の端を僅かに持ち上げた。
―――無意識の内に牽制してやがる・・・。
咽喉の奥で笑いを押さえるようにして、丹羽は何も知らずににこやかな笑顔を浮かべたまま此方に向かって来る啓太へと、改めて視線を向ける。
今の此の状況ですらこんな状態なのだから―――啓太への想いを自覚してしまったら、きっと中嶋は壮絶な程に束縛するのではないだろうか。
―――物凄い嫉妬するようになったりして。
「・・・王様?どうかしたんですか?」
笑いを噛み殺している丹羽に、啓太は珈琲のカップを差し出しながら、不思議そうに瞬きを繰り返した。
何でもねぇ、と軽く首を振って見せてから、丹羽はちらり、と啓太の肩越しに視線を向ける。
「まぁ―――・・・何か困った事があったら、直ぐに言えよ。俺が助けてやるからよっ!」
「―――はぁ・・・」
唐突な丹羽の言葉に、啓太は曖昧な返事を返しながら、小さく小首を傾げた。
「何時だって俺は、啓太の味方だからなっ!」
どん、と自分の胸を叩きながら、丹羽は豪快な笑い声を上げる。
恋愛をゲームのように捉えている中嶋が、本気の想いに気付かなければ良いな―――なんて、少し意地悪な事を思いながら、丹羽は啓太の手から自分のカップを受け取った。
自覚する日が来るのだろうか―――其れまでは、自分が良き先輩として、傍に居たい。
二人の想いが繋がるのは、そう遠くは無い未来だろう―――そんな思いを胸の奥底に仕舞い込みながら、丹羽は、目の前の可愛らしい後輩に、にっこりと微笑みかけた。






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