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バスルームの囁き

バスルームの囁き


今―――俺は、寮の自室にある浴室で、中嶋さんと向かい合って湯船に浸かっている。
白い靄のように立ち込める湯気の中、眼鏡を掛けていない裸の瞳で真っ直ぐに見据えられ、俺は眩暈がする程に、甘い痺れが全身を駆け抜けていた。
其れ程熱いお湯では無い筈なのに―――立ち昇る湯気は噎せ返る程の熱気を孕み、お湯に浸かっている身体は火傷しそうな程に熱を持っている。
何故こんな事態になってしまったのかと言うと―――。


珍しく学生会の仕事も無く早々に寮に引き上げていた俺は、夕食を済ませると、課題を先に終わらせるか、お風呂に入ってしまうか―――悩んでいた。
学生会の手伝いで帰りが遅い日々を送っていた為、今日のように突然、時間が空いてしまうと、正直どうしたら良いのか戸惑ってしまう。
本当は―――学生会の仕事が全く無かった訳では無いのだ。
しかし、放課後、何時も通り学生会室に顔を出した俺は、ドアの所で中嶋さんに素っ気無く追い返されてしまったのだ。
―――今日は、手伝って貰う仕事は無い。
雑用でも何でもやりますから―――と食い下がる俺に、中嶋さんは薄い眼鏡越しに鋭い視線を向けると、犬か猫でも追い払うかのように片手を億劫そうに振った。
本当は、例え学生会の仕事をしているだけだとしても、一緒に居たかったのに。
学年が違えば、学園内で会う事なんて殆ど無い。
ましてや、中嶋さんは殆どがアルティメットクラスだから、余計に会えない。
だから、放課後の学生会室での時間は―――俺にとっては、貴重なのだ。
それなのに。
冷たく突き放されて、俺は項垂れたまま学生会室を後にした。
気分転換に、先にお風呂かなぁ―――なんて、俺は溜め息混じりに掛け時計を仰ぎ見る。
「―――・・・っ?」
其の時、不意にドアを叩く音が響いてきて―――同じようなノックの音なのに、何故か俺には扉の向こうに立つ人物が安易に予想出来て、心臓が跳ね上がった。
―――中嶋さんっ・・・?
同じ扉を叩く音でも、微妙に違う―――中嶋さんのノックの音は、神経質そうとでも言うのか、何処か硬質な響きがするのだ。
「はいっ・・・」
俺はすぐに扉を開けて―――予想通り、其処に立っていた中嶋さんの姿を見付けると、ついさっき冷淡な態度を取られた事も忘れて、頬を緩ませた。
「不用意に開けるなと何時も言っているだろう。」
しかし、そんな俺の締まりの無い表情を軽く一瞥しただけで、中嶋さんは呆れたように大きく溜め息をつくと、飛び出すように顔を出した俺の頭をぐしゃり、と撫でた。
本当は、中嶋さんだって判ったから開けたんだけど―――とは、心の中だけで呟いておく。
俺の前を、当たり前のように通り過ぎる中嶋さんの冴えた横顔を視線だけで見送りながら、俺は扉を閉めた。
今日は学生会の仕事が早く終わったのだろうか―――こんな早い時間帯に中嶋さんが寮に居るなんて珍しい。
「俺の部屋の風呂が壊れた。」
しかし、次に発せられた中嶋さんの言葉に、俺は随分間の抜けた顔をしてしまったようだった。
「聞こえなかったのか。風呂が壊れたと言っている。」
―――いやいや、聞こえていますって。大浴場・・は?
俺が怪訝そうに眉を顰めると、中嶋さんは俺の右手を掴み、其の侭ぐい、と引き寄せた。
「風呂を借りるぞ。」
そう言い終らない内に、中嶋さんは俺の返事も待たずに踵を返すと、さっさと浴室の方へと歩いて行く。
「え・・・えっ・・・と―――・・・」
しかし、何故か俺の右手は中嶋さんに掴まれたままで―――引き摺られるようにして、俺は中嶋さんと共に洗面所まで連れて来られてしまっていた。
「何をしている、早く脱げ。」
―――えええええっ・・・?!
中嶋さんは既にブレザーを脱いでおり、其の長い指先がネクタイを緩めている所だった。
「何だ、お前は―――・・・服を着たまま風呂に入るのか?」
「―――おっ、俺っ・・・一緒にっ、入るんですか・・・っ?!」
妙な具合で声が引っくり返り、自分の発した嗄れたような其の声を聞いて、一気に身体中が火照る。
「お前の部屋の風呂だろう?」
―――意味判りませんっ!!!
何を言っているんだ、と言わんばかりの中嶋さんの態度に俺は心の中で大絶叫をしたものの、抗議らしい抗議も出来ずまま―――其れまでの経験上、中嶋さんに口答えしてして勝った例など無いに等しい俺は―――冒頭の状態に陥ったという訳だ。


「―――・・・・・」
冴えた其の瞳は、相変わらず俺を鋭く射抜いていて、俺はどうしたら良いのか判らず、オロオロと視線を漂わせているだけだった。
此れは、新手のお仕置きか―――もしかして、何かのプレイとか?
「―――啓太。」
ぞくりとするような低音で名前を呼ばれ―――浴室という場所のせいもあるが、僅かに響いた其の声色に、俺はびくん、と身体を震わせる。
「昼間―――・・・成瀬の奴と何をしていた?」
―――前者・・・だ。
俺は、さぁ、と一気に血の気が引いていくのを感じて、顔を上げる事が出来なかった。
「何をしていたのかと聞いている。」
「あっ・・・あ、の―――・・・」
昼休みに、何時ものように手作りのお弁当を持って来た成瀬さんが、俺を昼食に誘ってくれて―――其れでも昨日まではちゃんと断っていたのだ。
でも、あんまり毎日断ってばかりいて申し訳無いなぁ、なんて思っていた矢先の事で、今日に限って成瀬さんは「毎日ハニーに断られて寂しい」なんて、切なそうに俯いたりするから―――つい、一回くらいなら、なんて付き合ってしまったのだ。
まさか見られていたなんて思いもしなくて―――もっとも、中嶋さんに隠し事をしようとした時点で、そもそも間違いなのだが。
日頃、滅多に学園内で会う事なんて無いくせに―――何故か、そういう時に限って見られているのだ。
タイミングが悪過ぎる―――確実に、何時ものお仕置きコースが俺を待っていた。
首を竦めるようにしながら、俺は身を小さくする。
「―――此れ以上、くだらん奴に言い寄られないように、印を刻んでやろうか?」
ちゃぷん、とお湯が波立ち、中嶋さんが一気に顔を近付けてきた。
「―――――っ」
身を乗り出す為に腰を浮かせた中嶋さんは、湯船の底に付いた膝頭を、ぐい、と前に進めて―――其の長い指先で俺の顎を捉えた。
中嶋さんの脚は、丁度俺の脚の間にあって―――俺は両膝を閉じる事も出来ず、決して広くは無い湯船から逃げる事も出来ずに、濡れた中嶋さんの親指の腹が俺の唇をなぞるのを黙って受け入れるしかなかった。
立ち込めるお風呂場の熱気のせいばかりでは無く、俺は頭の芯がぼう、としてきて、しっとりと汗ばんでいる中嶋さんの額や、湯気で湿り気を帯びた髪が項に張り付いている様を、ぼんやりと見詰めていた。
―――格好良いなぁ・・・。
思わず、うっとりと瞳を細めた時―――中嶋さんの唇が優しく落ちてきた。
驚く程柔らかく、俺の唇を包み込むように触れてきて―――間近に迫った端整な中嶋さんの表情を、放心したように見詰めていたら、不意に其の瞳が妖しく瞬いた、ような気がした。
「痛っ―――・・・!?」
唇に激痛が走り、一瞬、訳が判らず思い切り顔を顰めてしまった俺を、意地の悪い笑みを唇に浮かべたまま中嶋さんがちらりと見遣る。
其の侭中嶋さんは顔をずらし、俺の耳元に吐息を吹き込んでいきながら―――今度は、耳に近い所の首筋に鋭い痛みが走った。
「いっ・・・痛いっ―――・・・中、嶋さんっ?!」
中嶋さんの唇が触れていった所に、キスの痕―――なんて表現出来るような生易しい痛みでは無い激痛が走り、俺の耳元では、どくどくと血液が流れる音が響いているようだった。
「誰からでも見える所に、俺の印を付けてやったぞ。」
咽喉の奥で声の無い笑いを一つ―――中嶋さんは、自分が噛み付いた後に指先を這わす。
じんじん、と痺れるみたいな鈍痛が引かない噛み痕に、優しく撫でるように触れられて、俺は思わず身体を震わせた。
「―――淫乱だな。」
嘲笑混じりに言われて、俺は一気に体温が上昇するのを感じた。
俺の全ての神経が中嶋さんの仕種、言葉、表情―――欠片程も見逃さないようにと研ぎ澄ましているのが判った。
まるで嘗めるように見詰めてくる冴えた瞳も、俺の熱を簡単に引き出してしまう細く冷たい指先も、意地悪な言葉ばかりで俺を翻弄する形の良い其の唇も―――どれもが大好きで、俺を捕らえて離さない。
こんな風に酷い事をされても―――やっぱり好きで好きで、堪らないのだ。
「―――んっ・・・」
傷痕に軽く爪を立てられて、ぞくり、と背中に電流が走る。
「此れからは、誰の所有物なのか―――・・・忘れない事だな。」
良いな?と念押しするみたいに、傷痕に唇を寄せてきた。
反射的に逃げ腰になり―――其の拒絶に似た俺の動きを叱るみたいに、中嶋さんの手が俺の項へと滑り、後ろから後頭部を固定するように押さえ込まされた。
「俺以外の男に簡単に靡くんじゃない。」
其の侭―――ぐい、と中嶋さんが膝頭を前に進めてきて、俺は、浴槽の隅に背中を押し付けながら、此れ以上、後退出来ないのは判っていたが、其れでも少しでも距離を置こうと、必死に身を小さくする。
勿論、中嶋さんの片手が俺の頭を押さえていたので殆ど身動きは取れなかったが―――今、中嶋さんの熱に捉まったら、後は堕ちるだけだと判っていたから、俺は必死の思いで抵抗した。
だって、こんな明るい所で―――なんて。
今更―――とも思うけれども、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
浴室には、煌々と明かりが灯っているのだから。
「さぁ―――・・・楽しい時間の始まりだ。」
其れなのに―――そんな俺のささやかな抵抗も面白がっている様子の中嶋さんは、小さく笑いを漏らすと、俺の肩を浴槽に押し付けるみたいにして固定した。
「お前が誰のものかって事を、もう一度じっくり教え込んでやるよ。」
そして、ゆっくりと中嶋さんの唇が落ちてくる。
「物忘れが酷いお前の頭でも覚えていられるように―――じっくりと、な。」
まるで宥めるかのように柔らかく触れていって―――俺は、堪らなくなってまるで追い掛けるように唇を寄せてしまった。
どんなに酷い言葉を言われても―――中嶋さんのキス一つで、俺は全てを赦してしまう。
其れ位、中嶋さんから与えてくれるキスは―――甘くて優しい。
冷たく突き放すような切れ長の瞳とは裏腹に、其の口付けは甘美な痺れで俺を酔わす。
冴えた其の瞳の奥には、確かに淫志な熱を孕んでいて、其れを見付けてしまえば―――もう後は堕ちていくだけ。
「ん、んっ―――・・・」
中嶋さんも判っているんだろうな―――なんて思いながら、ちらり、と薄く瞳を開けて中嶋さんの表情を盗み見たら、案の定、意地の悪い笑みを其の唇に浮かべて俺を見下ろしていた。
「―――――」
何でもお見通しだって顔して―――俺は、内心不貞腐れながら、其れでもそんな風に中嶋さんの腕の中に居る事は、俺にとっては凄く幸せな事だった。
俺は気付かれないように小さく笑いながら、中嶋さんの濡れて項に張り付いている後ろ髪を指先に絡めるようにしながら首に腕を回して身体を寄せる。
此れから訪れるであろう、艶美で淫乱な官能に意識を持って行かれる前に―――。
「―――大好き、です・・・中嶋さん・・・」
そっと告げる。
答えは判っている。
中嶋さんは、満足そうに瞳を細めて、少しだけ口角を上げる。
「ああ。」
短く返ってくる、何時も通りの答え―――其れでも俺は確かに幸せなんだ。






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