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バスタイムロマンス

バスタイムロマンス


「今後一切、大浴場を使う事は許さん。」
中嶋さんから、大浴場使用禁止令が出された。


其の日―――大浴場で、俺は成瀬さんと鉢合わせをした。
テニスで鍛え上げた、無駄の無い均整の取れた其の肢体を惜し気も無く晒しながら、成瀬さんは俺の身体を抱き締めたまま、なかなか離してくれなかった。
「ハニーが背中を流してくれたら許してあげる。」
語尾に思い切りハートマークを散らしながら、成瀬さんは俺の裸の腕や肩をゆるゆると触っていて―――俺は、くすぐったくて肩を竦めながら、二つ返事で承諾してしまった。
良く考えたら、可笑しな交換条件だったのだが―――周囲からは好奇の視線で冷やかされるし、頼もしい其の腕の中に抱き締められていると、ざわざわとしたものが身体の中を這い上がるような気がして、居た堪れなかったのだ。
「其れなら、是非僕の背中も流して下さいませんか。」
何時の間に入って来ていたのか、タオルを腰に巻いただけの七条さんが、にっこりと表面的な笑みを湛えて俺と成瀬さんの間に割り込んで来た。
疑問形の言葉でありながら、全く俺の意向を聞く気も無いらしい七条さんは、俺の隣りを陣取る。
「七条・・・ちょっと君、図々しくないかい?」
「いえいえ。成瀬君に比べれば可愛いものかと。」
「―――僕の方が先だからね・・・」
「勿論。判ってますよ。」
俺を真ん中に挟みながら繰り広げられる会話に、俺は、がっくりと項垂れる。
もうどうにでもなれ―――なんて、殆ど投げ遣りな気持ちになりながら、俺は二人の背中を流す事となった。
そして、背中を洗ってあげている最中、何だかんだと言いながら俺にちょっかいを仕掛けてくる成瀬さんを何とか遣り過ごして、律儀に順番待ちをしていた七条さんの背中を流してあげていた、丁度其の時。
「おっ・・・良いなぁ、七条っ!俺も頼むよ、啓太っ!」
豪快に浴室中に響き渡る其の声に―――顔を見なくても王様だと判り、俺は此の際、二人も三人も同じだと、良いですよ、なんて、にこやかに言いながら振り返って。
笑顔を張り付けたまま、其の場で固まってしまった。
―――中嶋、さん・・・。
王様の隣りには、露骨に眉を顰めた、不機嫌オーラ全開の中嶋さんが立っていて―――俺は其の侭倒れたい心境だった。
「おやおや。」
七条さんの嫌に間延びした声を何処か遠くに聞きながら、俺は熱い湯気が立ち込める大浴場の中、身震いすらしたくなる程に一気に体温が下がったような気がした。
「・・・・・」
途中で投げ出す訳にも行かず、射抜くような中嶋さんの鋭い視線から逃れるように俯きながら七条さんの背中に向き合った其の矢先―――不意に俺の手首を乱暴に掴まれた。
「会計の犬なんぞの背中を洗ってやる必要は無い。」
突然、頭上から地を這うような低く冷たい声が降って来て、視線を上げると、何時の間に俺の傍まで来たのか―――俺の手首を掴んでいる中嶋さんが、夜の闇よりも冴え冴えとした其の瞳で睨み付けてきた。
其の侭中嶋さんは俺の身体を引き上げるように手首を持ち上げると、戸惑う俺を無視して、背中を向けると歩き出す。
「おーい、ヒデ―――・・・俺の背中、まだ洗って貰って無いんだけど―――・・・?」
情け無い声を上げる王様に返事すらしないまま、中嶋さんは脱衣所に続く扉を乱暴に開けて、大浴場を後にした。
両手は勿論、身体にもあちこち泡が付いたままだった俺は、押し黙ったまま視線すら合わせてくれようとしない中嶋さんの様子に不安が込み上げて来て、涙が出そうになった。
握られたままの手首が、じんじんと痛む。
「あ・・・あ、の―――・・・俺―――・・・」
せめて、身体に付いた泡だけでもシャワーで落としたいと思い、俺は中嶋さんの表情を伺うように小さく声を出した。
俺が全部言い終わらない内に―――小さく溜め息が聞こえてきたと思ったら、不意に中嶋さんが振り向いて俺の頭を軽く叩いた。
「今後一切、大浴場を使う事は許さん。」
鋭い声でぴしゃりと言い放ち、凄味の利いた瞳で睨まれる。
叩かれた頭を片手で押さえながら―――俺は、しゅん、と項垂れた。
―――また中嶋さんを怒らせてしまった・・・。
「・・・風呂なら部屋にもあるだろう?あれで十分だ。」
落ち込む俺を気遣ってくれているのだろうか―――幾分、声色に平穏さが戻って来たような気がして、俺は、すん、と鼻を鳴らして上目使いに中嶋さんを見る。
部屋のお風呂と違って、大浴場は広くて気持ちが良いのに―――なんて、思わずそんな事を考えていたら、僅かに穏やかになりつつあった中嶋さんの表情が、ぴくり、と好戦的な色合いを浮かべたような気がした。
「―――啓太。」
ぞくりと、お腹の底に響くような低音で囁かれて、俺は無意識の内に肩を震わせる。
「お前は周りに愛想を振り撒き過ぎだ。やたらと尻尾を振るのは止めろ。」
中嶋さんのあまりの物言いに、俺がむ、としたように唇を尖らせると、中嶋さんは一瞬、片方の眉を上げたが―――何事か思い付いたのか、面白そうに口角をす、と上げた。
意地の悪い笑みが其の唇に刻まれ、吊られたように切れ長の瞳が細められて、俺は反射的に一歩後ずさる。
「いっその事、躾のなってない犬なら犬らしく―――・・・首輪でも付けて鎖に繋げておこうか?」
にやにやと笑いながら言われた其の言葉に、俺は、思い切り首を横に振った。
中嶋さんなら遣りかねない―――冗談では済まされない内容に、身を竦める。
思わず、きゅっ、と瞳を瞑った俺の―――其の瞼の上に、柔らかいものが押し当てられた。
「―――え・・・」
驚いて瞳を開けたら、至近距離に中嶋さんの顔があって、苦しそうに一瞬、眉が顰められたかと思う間も無く―――視線を絡めたまま、中嶋さんの腕がゆっくりと俺の背中に回って其の侭優しく抱き締められた。
裸の胸に抱き寄せられて、心臓の辺りが、きゅぅ、と苦しくなる。
「・・・俺以外が触れる事は許さん。」
吐き出された吐息が俺の睫毛を掠める程近くで低く囁かれた其の言葉に―――何を言われたのか瞬時には判断出来ずに、俺は随分と惚けた表情で瞬きを繰り返していたらしい。
「―――判ったか。」
押し黙ったままの俺に一瞬苛立ちを示すように中嶋さんの瞳が眇められ、ちらりと睨まれる。
殆ど条件反射的に、こくこくと頷く俺に呆れたように溜め息を付くと、柔らかな抱擁が幻だったのではないかと思う程に素っ気無く、中嶋さんは唐突に俺の肩を押すようにして突き放した。
「・・・さっさと着替えろ。帰るぞ。」
優しいかと思えば冷たい―――何時だって俺は中嶋さんに翻弄されっぱなしだ。
でも、どんなに冷たく振り回されても、時折見せてくれる優しさが―――堪らなく嬉しい。本当に物凄く判り難いんだけれども。
それに。
例え冷たくあしらわれたとしても―――其れすらも嬉しいと感じてしまっているのだから、もう相当俺は中嶋さんに夢中って事だ。
しかし、身体のあちこちに泡が付いたままの状態で帰るのはちょっと―――と、服を着るのを戸惑っていたら、さっさと着替えを始めていた中嶋さんが呆れたように大きく溜め息をついた。
「―――俺の部屋で入り直せば良いだろう。」
そう言いながらジャケットを羽織る中嶋さんの姿に―――俺は、思わず見惚れてしまって、ほぅ、と小さく溜め息をつく。
何もかもが計算し尽くされたように隙の無い動きで、さっと伸ばされた腕や、首筋の筋肉の動きとか―――全てが俺を魅了して離さない。
そんな風に惚けていたら、後からじわじわと中嶋さんの言葉が頭の中に染み込んできて、俺は自分でも判る程に頬が緩み始め、含み笑いのような声まで無意識の内に零れた。
俺―――中嶋さんの部屋に誘われてる?
「何時まで其の馬鹿面をしてるつもりだ・・・行くぞ。」
呆れたような中嶋さんの声に、はっと我に返った俺は、既に荷物を纏めて其の場を離れようとしている中嶋さんの背中を見付けて、大慌てで泡の付いたままの身体をバスタオルでざっと拭くと、着替えを始める。
「まっ・・・待って下さいっ・・・」
「煩い。置いてくぞ。」
「わぁ―――・・・待っ、待って!」
大急ぎで服を着込むと、既にドアの所から廊下へ出ようとしていた中嶋さんの元へ、俺は小走りで駆けて行った。
「中嶋さんっ・・・」
冷たく素っ気無いようでいて、ちゃんとドアの所で待っていてくれる中嶋さんに嬉しさが込み上げてきて、俺は飛び込むように中嶋さんの腕に抱き付く。
「・・・大好き―――・・・」
中嶋さんの腕に唇を押し付けながら小声で囁いた俺の頭を、中嶋さんは満足げに、くしゃりと撫でた。
「そうやって俺の事だけ見ていろ。」
すりすりと中嶋さんのジャケットに頬擦りしながら、俺は思い切り幸せに浸りながら、うん、と頷いた。






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