BLゲーム「学園ヘヴン」の二次創作小説サイトです。中x啓をメインに啓太受けのみの取り扱いとなっております。

ささやかな休息

ささやかな休息


「王様、誕生日おめでとうございますっ」
そう言って、啓太が差し出してくれたのは、両手の中に収まる程の細長いオレンジ色の箱で―――丁寧に、赤いリボンが結んであった。
「おうっ、さんきゅー。」
中身は知っている。
誕生日プレゼントに、何か欲しい物はありますか?と訊ねてきた啓太に、俺は素直に欲しいものを強請ったのだ。
椅子の背を軋ませて、啓太の方へ身体ごと振り向くと、手の上に置かれたオレンジの箱を俺は大切に撫でた。
「本当に此れで良かったんですか?」
心配そうに下から覗き込んで来る大きな瞳が、真っ直ぐ俺を見詰めてくる。
「あ・・・ラッピングは俺が自分でやったから―――・・・あんまり上手く無いんですけど。」
恥ずかしそうに頬を染めて小首を傾げる様子は、本当に可愛くて―――思わず抱き締めそうになってしまい、両手に力を入れて踏み止まった。
空調の効いた涼しい学生会室で、急速に体温が上昇する。
手にしていたプレゼントの箱を危うく握り潰しそうになって、俺は慌てて身体から緊張を解いた。
「王様?」
「いや、嬉しいよ。」
怪訝そうに見詰める啓太の視線に、誤魔化すように明るい声を出すと、俺はプレゼントのリボンを解く。
「開けても良いか?」
言いながらも、既に俺の手は箱の蓋を開けていた。
箱の中には、波止釣りで使う自立ウキと呼ばれるウキが入っている―――ちゃんと、俺が欲しいと言った物が入っていた。
「良いんだよ、此れで。此れが欲しかったんだから。」
ありがとな、と啓太の頭を撫でると、やっと安心したのか―――ほっとしたような可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「良かったぁ―――・・・でも、誕生日プレゼントに釣りの道具って・・・」
啓太は口許を片手で覆いながら、咽喉の奥で小さく笑い声を上げる。
「―――王様らしいですよね。」
ふふ、と楽しげに笑う啓太の肩が、緩やかに揺れた。
「そっかあ?でも、今一番欲しいモンだぜ?」
本当の一番は、決して手に入らないから、せめて―――。
「そう言って貰えると嬉しいですっ。」
照れたように微笑む啓太に、全身が痺れたみたいになる。
「―――今度、一緒に釣りに行くか?」
言葉は自然と口から零れていて、言ってしまってから、はっとしたように俺は唇を噤んだ。
「良いですねっ!」
楽しそうな笑顔を見せる啓太に、俺は少しだけ呆れたように首を振ってみせる。
「駄目だ、駄目だ。」
知らず、大きな溜め息が漏れた。
啓太と二人っきりで釣りに出掛けたりしたら―――。
「ヒデが怒り狂うぞ。」
デートに誘ったと知れたら、其れだけでどんな目に遭わされるか―――想像するだけで恐ろしい。
「中嶋さんが?どうしてですか?」
しかし、此の天然で鈍感な可愛い後輩は、きょとんと不思議そうな顔をして見せるから、俺は思わず天井を振り仰いでしまった。
「どうして、ってなぁ―――・・・」
はぁ、と大きな溜め息が再び俺の唇から吐き出される。
此の場に、当の本人であるヒデが居なくて良かった―――まぁ、仮にヒデが居たとしたら、素直にプレゼントを受け取らせて貰えないだろうけど。
「王様の釣り好きは、中嶋さんだって承知してますよ?」
的外れな事を言い出す啓太に、俺は小さく吹き出してしまった。
「そうじゃねぇよ。大事な恋人に手を出したとなったら、ヒデが黙ってねぇだろうって話しだよ。」
俺の言葉を、相変わらず不思議そうな表情で聞いていた啓太だったが―――暫くして、其の意味が漸く把握出来たのか、一気に頬を赤くして俯く。
さらり、と啓太の亜麻色の髪が流れて、白い項が剥き出しになり、匂い立つような色香が俺の思考を絡め取る。
「―――で、でも・・・王様は、そんなこと・・・しないでしょう・・・?」
視線を泳がせながら、ぽつり、と呟いた啓太に―――俺は、背中に冷水を浴びせられたような気分になった。
高鳴っていた心臓をいきなり冷たい手で鷲掴みにされたような、そんな感覚だった。
「―――あったりまえだろ・・・」
普段通りの、明るい声を出したつもりだったが、上手く出来ただろうか―――自信がない。
「ヒデの大切な人なら、俺にとっても大切な人だよ。」
そうやって言ってやるのが精一杯だった。
しかし啓太は、俺の言葉に、視線を伏せたまま嬉しそうに微笑むと、ありがとうございます、と囁くように呟く。
啓太が大切な可愛い後輩なのは、本当の事だ―――本当の事だが、あまりに無邪気に俺の言葉を其の侭受け取る啓太に、俺は眩しそうに瞳を細めた。
「―――其れより啓太・・・お前、実家には帰らないのか。」
此の侭だと、決して言葉にしないと心に誓った気持ちを口走ってしまいそうで、俺は些か強引に話題を変える。
「戻りましたよ、休みに入って直ぐ。」
突然話しを振った俺に、特別不審がる事もなく、啓太は素直に乗ってきてくれた。
「―――もう良いのか?」
確か、3日か、4日ほどしか学園を不在にしていなかったように思う―――長い夏期休暇中だというのに、そんな短期間で良いのだろうか。
あまり長く啓太がいないという状況も色々辛いのだが―――夏休みに入って直ぐの啓太がいなかった期間、ヒデと二人っきりの学生会室は極寒の地、北極よりも凍て付いていた。
啓太が傍に居ない事で、少なからずヒデも機嫌が悪かったんだと思う―――俺への嫌味も注意も、半端なく辛辣だった。
無数の氷の刃の上に座らせられているような、そんな学生会室は、もう二度とごめんだ。
其れに―――俺としても、啓太の姿が見えないのは寂しい。
「はいっ・・・王様の誕生日もありますから。学園に居たかったんです。」
にっこりと全開の笑顔付きで言われて、俺は思わず其の場に座り込みそうになってしまった。
「―――嬉しいこと、言ってくれるねぇ・・・」
溜め息混じりの俺の言葉に、だって直接お祝いしたかったんです、と肩を竦めるようにして小さく笑い声を上げる。
こいつはどうして、こう―――。
「・・・ヒデが執着する筈だ。」
はぁ、と大きく溜め息を付くと、少し驚いたように啓太は瞳を見開く。
純粋で素直で、誰に対しても見返りを求める事無く、心を傾けてくれる。
こんな奴が恋人になってくれたら―――周りに居る者全てに優しく手を差し伸べるような奴が、自分だけを見てくれたら、特別な想いを寄せてくれたら、きっとどんな奴だって手離せなくなるだろう。
「でも、あんまり可愛い顔、見せんなよ。」
そう言うと、俺は啓太の鼻先を軽く摘んだ。
「―――むぅ・・・」
くしゃ、と顔を歪めてから、擽ったいのか、啓太は俺の手を振り解くように首を緩く左右に振る。
「もう―――・・・何ですか、それ―――・・・」
啓太は、不貞腐れたように唇を尖らせて、意味が判らないとでも言うように、俺を軽く睨んできた。
「キレたヒデの相手はご免だって事さ。」
そんな啓太の物言いたげな視線を受け流すと、大袈裟に肩を竦めて見せながら椅子から立ち上がる。
「さぁ、今度の週末は、早速此れで釣りでもするかなぁ―――・・・」
両手で大事に持っていたプレゼントの箱を、俺は自分の机の引き出しに、丁寧に仕舞った。
一番大好きな存在は、決して手に入らないから、せめて、一番大切な存在からプレゼントを貰う―――そんな細やかな喜びを願っても許されるだろう。
だって、今日は俺の誕生日なのだから。
ほんの少しの時間、可愛い後輩の笑顔を独り占めして―――また明日からは、頼れる先輩に戻るから。







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